NHK Eテレ「悪は根絶できるのか?」番組まとめ

NHKで放送されている「モーガン・フリーマン 時空を超えて」

テーマは「悪は根絶できるのか?」

人間は歴史が始まって以来、自らの内なる暗黒面と戦ってきた。

ごく普通に見える人たちまでが、時には残虐な行為や暴力に駆り立てられる。

それは何故なのか。

研究者たちは、人間の心に潜む悪魔の正体を突き止め、邪悪な衝動を消し去る人間性を善なる方向に導く手段を探している。

悪を根絶することは可能なのだろうか。

[目次]

[序章]

[モーガン・フリーマンの話し]

[サイコパスも他者に共感]

[道徳は人の本能?]

[脳を鍛えて善人に!?]

[実はあなたもサイコパス?]

[科学的処置が生む「親切」]

[あなたに人を裁く資格が?]

[赤ちゃんに排他的精神が?]

[人類は道徳的に進歩している?]

[モーガン・フリーマンからのメッセージ]

[独り言]

[]

[解説]

(番組放送順と多少前後有り)

[序章]

自分を邪悪な存在だと思う人はめったにいないが、悪と完全に無縁な人もない事実。

それは何故だろうか。

長い間それは悪魔という外部の存在が成せる技だと考えられてきた。

しかし、今では悪魔とは単なる象徴にすぎないと多くの人が考えている。

心理学者や神経科学者は、悪魔とは私たちの心が生み出すものだと証明してきた。

では、心の中にある悪魔の隠れ家を見つけ出し、滅ぼすことはできるのだろうか。

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[モーガン・フリーマンの話し]

私は9歳の時にシカゴに引っ越しました。

新参者として私はいじめの標的になってしまいました。

ある日、我慢の限界に達し反撃に出ました。

地面に転がった いじめっ子を見ても喜びを感じられませんでした。

私はこう思いました。

何故この子はこんなに意地が悪いのだろう。

この世に生まれながらの悪人が存在するのだろうか。

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[サイコパスも他者に共感]

オランダ・神経科学研究所 神経科学者 クリスチャン・キーザースの話し。

彼は人間の残虐さが何に由来するのかを知ろうと研究している。

そのために人間同士の共感、つまり他者の考えや感情を特定し、それに反応する能力を研究している。

人が共感を覚えた時に脳はどのように活動するのか、それを調べる為実験用の短い動画を撮影した。


作っている動画の内容は他人の指を不自然に折り曲げたり手を叩いたりして痛みを感じさせるようなもの

必要なのは2、3秒の痛みが何度も繰り返される映像で時間的な正確さが求められるため自分たちで作っている。

完成した自主制作の拷問映画を実験に利用する。

機能的 MRI を使って被験者が共感を覚えた時に脳のどの部分が活動するかを調べる。

まず他者が痛みを感じる映像見せた時に被験者の脳内で何が起きているかを確認する。

その後で被験者自身に直接痛みを感じさせたときに脳内で何が起きているかを確認する。

そして脳の画像を比較する。


彼らが研究している情動的共感の活動がみられる部分は脳の表面ではなく内部。

こめかみの上あたりと二つの半球の真ん中にある部位で自身が痛みを体験しているときと他人が痛みを感じている映像を見た時で反応している部分が一緒だった。

まるで被験者自身が直接痛みを感じているかのよう。

他人の苦痛を目にすると人はそれを心の中で共有する。


他人の苦痛が外側にあるものでなく内側に入り込み自分自身の痛みとなる。

他人が自分の一部になるといってもいい。

キーザースが何百人もの被験者を調べた結果、他人に共感する力は ほとんど全ての人に生まれつき備わっていると結論づけた。

ただし、その程度には個人差があり著しく高い人もいれば低い人もいる。


映画を見ると多くの人は登場人物に感情移入する。

しかし、共感する能力が低い人は それを冷めた目で眺める。

脳の働き方が異なると物の見え方や聞こえ方も違う。

脳内を流れる情報は運河を進むボートのようなもの。

運河が狭かったり塞がったりしているとボートは進めなくなってしまう。

見え方や聞こえ方が人によって違うのは視覚的な情報を扱う領域と情動に関わる領域をつないでいるサイズが人によって違うから。

では殺人などの邪悪な行動を平気で行うことができるサイコパスと呼ばれる人たちはどうなのか。


サイコパスは他人に共感する能力に欠け、そのため人に苦痛を与えたり殺したりといったことができるのだと一般的には思われている。

しかしシーザースの意見は違う。

実験で最も衝撃を受けたのはサイコパスを被験者にした時のこと。

サイコパスが共感する能力に欠けると思っていたのに そんな単純な話ではなかった。


彼らは共感する能力が欠如しているのではなく意図的にその能力を使わないようにしていた。

そのため状況によっては その能力を使いこなすことができる。

お金をだまし取ろうとする時などは見事に相手に共感し、その心に入り込むことができる。

つまり悪を根絶するには共感する能力だけでは不十分だということ。

人が破壊的な行動をとらないよう行動の指針となる道徳的なシステムが必要になってくる。

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[道徳は人の本能?]

米・イェール大学 心理学者カレン・ウィン と ポール・ブルームの話し。

彼らは、道徳的な能力は生まれながらに人間に備わっていると考えている。

それを確かめるため20年以上赤ちゃんを対象にした研究をしてきた。

研究を重ねるほど結果は複雑さを増してきた。

赤ちゃんの頭の中では色々なことが起きている。

私たちが思っている以上に赤ちゃんは豊かで複雑な精神生活を送っていることが分かってきた。

赤ちゃんを研究対象にすることで いわゆる汚れる前の人間を見ることができ様々な文化やセックスなどに影響される前の最も純粋な状態つまり 人間の本質を調べることができる。

人間は優しいのか残酷なのか善悪の判断はつくのか そういった問いにヒントを与えてくれる。

その結果人間は極めて初期の段階から道徳的な本能を備えていることがわかった。


 しかし、赤ちゃんに対してどのように道徳的な質問をするのだろうか。

ウィンは赤ちゃんでもわかる人形劇を利用した。

この劇では人形のひとつが箱をあけようと一生懸命頑張る。

でも、うまく開けられない。

そこへ別の人形がやってきて箱を開けるのを一緒に手伝ってあげる。

その後、人形がまた箱を開けようとすると別の人形がやってきて蓋に乗っかり閉めてしまった。

その後で赤ちゃんが どっちの人形に好意を持ったのかを調べる。

片方は親切に箱を開けるの手伝った人形、もう一方は意地悪をした人形。

どっちが好きかを尋ねると まだ生後5、6ヶ月の子供でも高い確率で親切な方の人形に手を伸ばす。


親切な人形選ぶ確率は80から95%に達した。

人間は生まれつき優しさに惹かれ、反社会的な振る舞いを避けるからだとウィンたちは考えている。

しかし、それが正しいとすれば何故世の中に悪が存在するのだろう。

この世界には良識を歪めるものがたくさんある。

例えば他者を否定する考えを教え込む文化の下で育てば共感する能力が損なわれる。

生まれつき人間に備わっている倫理観は脆いもの。

一度邪悪に染まったらそこから抜け出すことはできないのだろうか。

そもそも悪への衝動を抑えることは不可能なのだろうか。

ある科学者は脳を鍛えることで己の内なる邪悪を抑え込むことができると考えている。


人は誰しも精神の奥深くに獣を飼っている。

自分が生き残る事しか考えない獣。

ほとんどの人は心の檻の中で飼いならしているが中には獣の欲望に屈してしまう人もいる。

それが望ましい結果を招くこともある。

しかし邪悪な行動をした人たちに選択の余地はあったのだろうか。

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[脳を鍛えて善人に!?]

米・ベイラー医科大学 神経科学者 デヴィッド・イーグルマンの話し。

彼は人間の精神を長年研究した結果、恐ろしい結論に到達した。

ほんの些細な不運で人は誰しも怪物に成り得るという結論。

知性や共感の能力は何を基準にしても人によってばらつきがある。

この世に一つとして同じものはない。


 脳は極めて繊細で複雑な器官。

怪我や病気で脳内の様々な物質のバランスが崩れると体の状態や人格まで大きく変化することがある。

ただし、親指を怪我したぐらいで人格が変わることはない。

でも脳に親指大のダメージを受ければリスクに対する観念や意思決定が変化し時には殺人さえ犯す。


1966年チャールズ・ホイットマンという若者がテキサス大学オースティン校のタワーに登って銃を乱射し合わせて48人を死傷させた。

事件の恐ろしさを際立たせたのは犯人の経歴に そんなものを予感させるものが何一つなかった点。


ホイットマンは建築を学び妻や義母と暮らしていた。

原因はいったいなんだったのか。

彼は遺書に自分を検死解剖して欲しいと書いていた。

解剖すると脳にクルミ大の腫瘍があり扁桃体を圧迫していた。

扁桃体は恐怖や攻撃性に関わる領域。

扁桃体は感情の中枢であり原始的な欲求の源。


通常はセルフコントロールの要である前頭葉と側頭葉によって抑制されている。

しかし、病気などで前頭葉や側頭葉が弱ると押さえつけられていた悪魔が顔を出し人間を邪悪な行動に駆り立てることがある。

ある種の認知症など前頭葉と側頭葉が変化した場合、抑制が取り除かれ反社会的な行動に出ることがある。

これは偏桃体のもつ衝動が抑えられなくなるため。


例えば店主の目の前で万引きをしたり、大勢の人の前で裸になったり、性的に問題のある行動をとったりしやすくなる。

つまり人間の行動は肉体の物理的な状態と密接に関わっているということ。

私たちが思っているほど行動を選択する自由はないのかもしれない。


例えばある40歳の男性のケース。

彼は本来、性的にノーマルな人物だったが、ある時から小児性愛の傾向が強くなり とうとう告訴された。

判決の前夜、彼はひどい頭痛に襲われて救急医療室に運ばれた。

そこで前頭葉に大きな腫瘍があることが分かり緊急手術を受けた。

腫瘍が取り除かれると彼の性的嗜好はノーマルに戻った。

ところが半年後に再び小児性愛の傾向が出てきたので診察を受けると前回の手術で見落とされていた腫瘍が成長していた。

もう一度手術を受けた彼は今度こそ完全にノーマルに戻った。


チャールズ・ホイットマンが凶行におよんだ理由も脳にできた腫瘍のせいだったのだろうか。

彼は凶暴な衝動をコントロールできなかったのかもしれない。

人間には短期的に満たしたい衝動があり、一方にそうした衝動を抑え込む長期的思考がある。

その二つが常に葛藤を繰り広げている。

例えば私がこのレンガを窓にぶつけたい衝動に駆られたとする。

一方ではそんなことをして捕まっては大変だと思う。

その二つの想いが綱引きをする。

その綱引きが苦手な人もいる。


イーグルマンは自制心をトレーニングによって強化できると考えている。

彼は神経科学者のスティーブン・ラコンテと共同で前頭葉トレーニングジムという実験を始めた。

そのジムでは自制心を司る、いわば精神という名の筋肉を動かすと脳がどう反応するか見ることができる。

この日はコカインに溺れて友人や身内に盗みを働いた犯罪者を被験者にしてトレーニングに参加させた。

彼にドラッグにまつわる様々な画像見せ それぞれについてドラッグを求める気持ちが強まるかあるいは静まるかを調べる。

ドラッグの常用者がドラッグの粉の写真などを見せられると通常は欲求が高まる。

機能的 MRI はそんな脳の活動を察知し、画面上にバーグラフとして表示する。


彼らはこの技術を刑務所に導入し、犯罪者の再発防止に役立てたいと考えている。

この技術の素晴らしいところは自分で自分を助けられる事。

強制的に人格を変えるような大それたことはしない。

短期的な衝動を抑え長期的な思考力を自らの意思で強くできる。

ただしこの技術は一見正常に見えながら邪悪な行動を平気で行うサイコサイコパスには通用しない可能性が高い。

しかし、彼らが罪を犯す前に邪悪な脳の存在を突き止める技術が確立するかもしれない。


サイコパスは良心の呵責を感じることなく他者に危害を加えることができる。

極めて邪悪な存在と言って良い。

しかし、驚いたことに そのような人物は想像以上に多く人口の30%にのぼると言われている。

自分の脳に問題があるかどうかを知るにはどうすれば良いのだろうか。

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[実はあなたもサイコパス?]

米・カリフォルニア大学 神経科学者 ジェームス・ファロンの話し。

彼は長年、脳の構造を研究してきた。

中でも専門的に調べているのはサイコパス。

6年前に精神医学の研究仲間二人が 脳機能のイメージング画像を大量に持ち込んできた。

それはどれも凶悪な殺人者のものだった。

そして全体の四分の三ほどを調べたところで明確なパターンに気づいた。


 サイコパスの殺人者は独特な脳の構造をしていた。

脳の扁桃体と側頭葉前部、前頭眼窩野、前頭葉の内側部に帯状回少し戻って海馬、サイコパスはこれらの活動が低下し連携が途切れている。

脳の構造は周囲の世界の見え方に影響する。

普通、車を運転する時 運転手は自分の車以外に他の車や歩行者といった他の動きなども気にしながら これからの自分の行動を考える。

要するに周りの様子を気にしながら自分の振る舞いを考える。

自分からも周りが見えるし周りからも自分が見える。

それがサイコパスの場合は全く違う。


サイコパスの場合は、いわば夜中のドライブ。

サイコパスの正体は周りからは見えない。

外に目をやると歩く人は目に入るが彼にとってそれは人ではない。

サイコパスは夜の闇を利用する。

他人と気持ちを通わせることのない夜の闇。

他人を単なる物と見て、通行の邪魔になれば轢き殺すこともためらわない。


サイコパス的な脳の構造形成には少なくとも40の遺伝子が関係しているとファロンは考えている。

凶暴性や自己陶酔性殺人を犯す傾向などに影響する遺伝子。

ではそのような遺伝子を受け継ぎサイコパス的な脳の構造をしていたら必ず殺人を犯すのだろうか。

ファロンは思いもよらぬ形でその答えを得た。


当時彼はアルツハイマー病の遺伝を心配して家族全員の脳をスキャンし調査していた。

そこでひとつの異常を発見した。

脳の構造が どうみても殺人犯のものだった。

その時、殺人犯の脳を調べていたので その画像が紛れ込んでいたのだと思った。

しかし、事実は違っていて その画像はファロン自身のものだった。

扁桃体と前頭眼窩野の周辺に活動低下が見られサイコパスならではの特徴だった。

面白いと思う気持ちや否定したいと思う気持ちが混ざっていたが なんとか落ち着いて受け止めることができた。

その後でファロンは自分の遺伝子ファイルと家族の歴史を調べ始めた。

その結果、自分が11個のハイリスクな遺伝子を受け継いでいることや殺人を犯した先祖がいることがわかった。


彼は家族や友人に自分がサイコパス的な特徴が見られるか尋ねてみた。

すると答えは、

「何を今更、君がサイコパスだってことぐらいみんな知っているよ」

「すごく負けず嫌いで人を思いのままにしようとするだろう」

「でも楽しい奴だし暴力をふるうわけでもない」

「だから特に指摘しなかっただけ」


優れた科学者で皆の人気者だがサイコパス特有の脳を持つ危険な人物。

どちらが本当のファロンなのだろうか。

この事実を知った時はファロンは60歳。

それまで彼は自分のことをわかっていると思ったし自信を持っていた。

その自分が実は自分が思っていたような人間ではないと分かりさすがにショックを受けた。

そして彼は根本的な疑問に向き合った。

これほど殺人者ならではの特徴を持ちながら なぜ自分は殺人者になっていないのか。


遺伝子や脳の構造で これだけ危険因子を持ちながら悲惨な結果になることを上手く逃れたたと言える。

それはひとえに両親や親類が私を幸せに育ててくれたおかげ。

生まれや育ちかとよく言うが彼の場合は育った環境が良い影響を与えたのだと思われる。

リスクの高い因子や脳の構造が必ずしも殺人者を作り出すわけではない。

むしろ幼少期における虐待体験の方が影響は大きいようだ。

家族の愛情のおかげではファロンは殺人者になることを免れた。

全てのサイコパスが犯罪を犯すわけではない。


しかし犯罪を犯した者には どのように対処したらいいのだろうか。

社会から排除し閉じ込めれば済むのか、現在悪を排除するため過激な方法が研究されている。

それは頭の中にある悪を文字通り消去してしまうというもの。

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[科学的処置が生む「親切」]

スイス チューリヒ大学 神経経済学者クリスチャン・ラフの話し。

人は本来邪悪な生き物だと考える宗教がある。

正しい道を進みたいと願いながら果たせない存在。

そのような罪人を科学的に善人にできるとしたら。


ラフは神経科学を利用して人の考え方や行動を変える研究をしている。

人間の行動は動物にしては独特。

他の動物と違い、人間は己の利益だけに走らない。

社会規範やルールに従い行動をコントロールできる。

例えばルールに従ってトランプをできる。

その一方で人は常にルールを破りたいと言う誘惑にかられている。

しかしそれを実行する人が増えたら社会はすぐにも大混乱に陥る。

そこでルールを破らないように威嚇的な意味を持った刑罰の整備が求められる。

ルールを破れば厳しい罰を受けると人々に教え込む。

ラフは刑罰という医学的手段ではなく より科学的な形で人がルールに従うシステムを考案した。


そのシステムの実験を10人ほどの被験者たちを使って実験している。

被験者たちはビデオゲームでつながっている。

頭につけたヘッドギアで利他的行為、つまり他者の幸せを考える脳の部位に電気を流す仕掛けがしてある。

その部位に電気的な刺激を与えると人はより親切な行為をすることがわかった。

最初は電極と頭皮が接触した部分にチクッとした痛みを感じる。

だが30秒ほどで刺激を受けている感じはなくなる。

この日行ったのは利益分配ゲーム。

自分が持っている仮想通貨を人に分配するが、仮想通貨は最後に現金になると伝えているため つい欲が出る。

プレイヤーは1回のゲームごとに他のプレイヤーのプレーがフェアかどうかを判断する。

自分でキープする割合を70%にすると他のプレイヤーは私を罰することができる。

欲張ると全てを失うこともある。


最初のうちはみんな利己的に振る舞う、しかし途中からヘッドギアを通じて電気が流れ始める。

5分間脳を刺激されると全てのプレイヤーが進んで他の人に利益を譲るようになる。

電気的な刺激で誰もが親切になった。

この変化は一時的なもので電気刺激の効果は20分ほどしかない。

しかし処置を繰り返せば永続的な効果が現れるかもしれない。

この技術を応用することで邪悪な思考を抑え込み、犯罪者を善人にすることはできるのだろうか。


今の段階では非常に利己的な人や暴力的な人をこの方法で調整することは不可能。

しかし、そのような人たちの神経システムを明らかにし電気刺激でどのような影響を与えられるか まもなく分かると思われる。


前出の神経科学者のジェームズファロンは薬物を使ってこのような矯正はすでに可能だと考えている。

邪悪な行動をコントロールすることができるのかは行動の程度によるがおそらく可能だと言う。

その方法は薬を鼻から吸うだけ。


例えば衝動を抑えられない人がいるとする。

衝動のコントロールは前頭眼窩野と呼ばれる部分にある。

吸い込んだ薬がそこに作用し情動をコントロールする力が高まる。

ただ薬を吸い込むだけの単純な方法だが一定の効果が期待できる。

成分を変えて それぞれの人に適した薬を調合できるので その人専用の行動習性薬を処方することができる。


 ただし効果が持続する時間に限界がある。

少々荒っぽい話に聞こえるかもしれないが社会がそれを容認するなら今すぐにでも実行可能。

問題のある脳を修正し、犯罪が起きる前に阻止する方法が いつか実現するのだろうか。

しかし、ある科学者は悪を排除するためには悪人だけでなく彼らを裁く側の脳の思考を探る必要があると考えている。

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[あなたに人を裁く資格が?]

米・ヴァンダービルト大学 生物学者・法律学者  オーウェン・ジョーンズの話し。

ジョーンズによると現代では犯罪の動機よりも与えた被害の大きさによって犯罪者を罰する傾向がある。

犯人の頭の中を覗くよりも被害者の体に打ち込まれた銃弾を数える方が簡単だから。

では犯罪者の頭の中を覗きながら裁くことができるとしたらどうなるか。

そんな日がじきに訪れるかもしれない。

ただ、その時は裁く側の頭の中も同じように覗かれる。


生物学者でありながら法律学者でもあると言う稀な人物ジョーンズは刑事・司法の見方も独特。

彼は模擬法廷を開き、犯罪者・裁判官・陪審員の思考の流れを探っている。

彼の様に神経科学を法定に持ち込もうとする試みは良しにつけ悪しきにつけ増えている

例えば被告人の脳のスキャン画像を証拠として提出し、被告は脳に機能的障害があるため責任を問うことができないと無罪を主張するようなケース。

彼は特に注目しているのは犯罪者ではなく裁く側にいる陪審員たちの脳。

ジョーンズは今の裁判には重大な欠陥があると考えている。


 現在の裁判制度は被告が罪を犯したかだけでなくその時の被告の精神状態を見極めることが陪審員に求められている。

ジョーンズの研究によれば被告に罪を犯す意思がどの程度あったのか陪審員は正確に判断できない。

それは感情的な要素が入り込むため。

例えば飲酒運転で事故を起こした人間が二人いるとする。

一人は木に衝突、もう一人も木に衝突するが、木の前にいた少女まで轢き殺したとする。

前者は軽い刑軽で済み、後者は刑務所に行くことになる。

それ自体は無理もないことだが刑期を決める際にある種の歪みが生じる。

陪審員は少女を巻き添えにした運転手に極力重い刑を与える傾向がある。

この二人の罪を犯す意思そのものは同じレベルだったはず。

しかし少女を巻き添えにした運転手は故意に轢き殺したかのようにみなされる。

罪を犯すレベルは実際は同じなのに少女を巻き添えにした方が最初から悪意を持っていたかのように判断されてしまう。

感情を刺激されると裁く方は厳しくなりがち。

逆に感情的な部分が遮断されると明らかな殺意を見逃してしまう場合がある。


 私がある女性の殺害を企てたと仮定する。

私は彼女にケシの実アレルギーがあると信じている。

私は彼女が食べるサラダにケシの実をたっぷりとかける。

だが、ケシの実アレルギーというのは間違いでケシの実で彼女は死なない。

実は彼女はケシの実ではなくピーナッツに対するアレルギーがあった。

それを知らないシェフが彼女のサラダに たまたまピーナッツを入れてしまった。

そして彼女は たまたま死ぬ。

その後、私の犯行計画がバレたとしても実際に彼女が死ぬような危害は加えていないのだから罪に問われないだろう。

私の明確な殺意を別の人が彼女に死をもたらしたという事実によって覆い隠されてしまう。


 罪を犯す意思ではなく結果重視で人を裁く意思決定の仕組みをジョーンズは神経科学的に研究した。

このような犯罪を裁く時、裁判官や陪審員の脳はどの部位がどのように活動するのか。

最初に活発な反応が見られたのは「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」

ここは分析と認知を司る部位。

この部位は人を罰するかどうかを決める時に大きな役割を担っている。

しかし、罰すると一度決めたら その度合いを決めるのは感情を司る扁桃体になる。

二つの大きな異なる部位だが連携して処罰を決定している。

片方は分析的で、もう片方はとても感情的だが 感情的な方の脳で処罰の量を決める。


 裁判官や陪審員は脳の中の分析的な部位と感情的な部位の両方を駆使することが求められる。

どちらかの機能が低下すると誤った判断が下される可能性がある。

こうした研究を通じて判決の偏りをなくせるかもしれない。

ジョーンズは、犯罪に対する責任を判断する際に、結果ではなく その人がとった行動に注目すべきだと考えている。

ジョーンズは自分の研究がより公正な裁判の実現につながることを願っている。

たまたま悲惨な事故を起こしてしまった人ではなく、明らかな悪意を持った人だけを投獄できるような制度を確立するため。

しかし犯罪者を裁く方法が改良されたとしても それによって悪を根絶できるわけではない。

それは、ある社会全体が道徳的に誤った方向に進むケースは歴史的に珍しくないから。

どうすればそのような事態を避けることができるのだろうか。

悪意が私たち一人一人のこと心を歪めてしまうことは明らか。

そして時に社会全体が悪意に染まることがある。

大量虐殺や奴隷を肯定する国家を人々が受け入れてしまうから。

社会が悪に染まる原因を突き止め それを防ぐことができるのだろうか。

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[赤ちゃんに排他的精神が?]

米・イェール大学 カレン・ウィンの話し。

前出の「道徳は人の本能?」で彼女は赤ん坊でさえ善悪を判断し、善を好むことを明らかにした。

しかし、別の実験では人間性のネガティブな面を暴き出している。

自分をある集団と結びつけ その集団に入っていないものを差別する傾向は幼いうちから芽生えるという。

赤ちゃんに選択肢として二つの食べ物をあげる。

例えばクラッカーとインゲン豆でこの赤ちゃんはクラッカーの方が好き。

次に二つの人形を紹介すると片方の人形はクラッカーを選ぶ。

もう片方の人形はインゲン豆の方を選ぶ。

赤ちゃんはかなりの確率で自分が好きな食べ物を選んだ人形、つまり好みが同じ人形の方を選ぶ。

赤ちゃんは自分と意見が合う人形を好むだけでなく、意見が合わない人形が罰を受けるのを見たがった。

クラッカーが嫌いな人形はその赤ちゃんにとってよそものと認定されたのだ。


一才以下の赤ちゃんでさえ自分と同じものを好み、異質なものを嫌う。

これは大人になっても消えない。

自分と違う意見や好みを持ったものを どう受け止めるか そういう人たちに何を求め社会的にどう接していくべきか。

同類を好むという幼い頃からの心理はそう言った判断にとても大きな影響を及ぼすはず。

私たちの脳は自分と同じグループに属する人をより気にかける傾向がある。

どんな食べ物が好きか自分と肌の色が同じか何の宗教を信じているか。

様々なことで他者に線を引き、差別し、時には取り返しのつかない事態を引き起こす。

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[人類は道徳的に進歩している?]

米・ハーバード大学 実験心理学者 スティーブン・ピンカーの話し。

残虐行為の多くは ある集団が別の集団を非人間的なものとみなしたときに生じる。

相手の集団を害虫と変わらない存在だと考えてしまう。

大切なのは そんなものの見方を変えること。

人を特定の集団に分けるのではなく、人類を一つの大きな集団として見ることができれば道徳的な進歩が期待できる。

小さな集団ではなく より分け隔てのない大きな集団に帰属しようとする意識の変化は徐々に進んでいるとピンカーは考えている。

その結果生じたのが暴力の減少。

暴力は次第に減少し、今私たちは歴史上最も平和な時代に生きているそう言ったら耳を疑う人もいるだろう。

それについてはピンカーが『暴力の人類史』という本に詳しく書き出している。

膨大なデータがグラフとして掲載されていて実際に暴力が減っているということを示している。


ボストンには かつてコンバットゾーンと呼ばれる一角があった。

殺人や暴力が横行する地域だったが、今では見違えるように平穏になっている。

かつて、この近くでカナダ・イギリス・フランスを敵に回した血みどろの戦いがあった。

今アメリカがそれらの国と戦争するなんて考えられないはず。

数百年前なら私は宗教的な理由で火あぶりにされたり先住民との戦いで殺されたりしたかもしれない。

人類の歴史の大半は驚くほど暴力的で残虐なもの。

そこから多くの進歩があった。

例えば 至る所に存在した奴隷制度は今では どこでも違法。

かつては日常的な出来事だった戦争も多くの人にとっては特殊な出来事になっている。

ピンカーによれば変化の大きな要因は政府の役割強化と法の支配。

だが人類が昔より賢くなった点も見逃せないという。

頭が良くなった分、人間は善良になったのか?

意外に思うかもしれないが答えは YES

人類の知能指数は世界中で上がり続けた。

大きな理由は学校教育が普及したため。

そして科学の進歩に伴う分析的なものの考え方が日常生活に浸透したためだと考えられる。

人類の知的レベルが上がったことで協力し合うことのメリットと暴力を行使することのデメリットが広く理解されるようになった。

そう考えてもおかしくはない。

メディアと交通機関の発達は世界をひとつにつなぐ役割を果たしてきた。

人間の脳の仕組みを知ることも同様。

脳に対する知識を深めることで、人間性とは何なのか悪はなぜ生まれてくるのかを理解できるようになるはず。

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[モーガン・フリーマンからのメッセージ]

悪が全く存在しない世界は幻想に過ぎないでしょう。

しかし、脳の仕組みがさらに解明されればき危険人物を特定し、深刻な被害が出る前に何らかの手を打つことが可能になる。

悪を根絶することは不可能でも悪を封じ込め多くの人への被害を最小限に留めることはできるかもしれません。

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[独り言]

以下は、イジメについて思ところがある人にお読み頂きたいと思います。


 戦争や犯罪とは一見無縁に見えるが、深刻な問題の一つで戦争や犯罪と同類なのはイジメ問題。

そして、イジメが無くならないのは本能のなせる業。

自分・自分が属する集まりと それとは趣を異にする存在があれば人は「異」を排除したり痛めつけようとする。

筆者自身も幼少期にイジメにあった。

そのきっかけは身体的理由。

片側の耳がつぶれ、聴覚を失っていた私は国語の教科書に出てくる「耳無し芳一」の授業が一番のキッカケだった。

たった一つの見かけだけで人を排除する心理状態。

しかもイジメをした側の多くは大人になるにつれ イジメた事実さえ忘れてしまう。

イジメられた側の心にはイジメられた苦痛・不安・恐怖が取り残され、多くの場合は孤独なままだ。


「人類は道徳的に進歩している?」でピンカーが『人類が進化した大きな理由は学校教育が普及したため』と言っているのは間違いではない。

だが、太古から部落・部族間で食料を求めるために争った本能は人の中から消えていない。


単に知能が向上し教育が行き届いたからと言って悪は根絶できない。

悪を根絶するためには本能の奥底にある「人と争う」「排他的思考を持つ」事を消し去ることが出来るまで完全にはなくならない。


それは明日かもしれないし一万年先の話かもしれない。

でも、科学が進化することで いずれ訪れるものと信じている。

追申

では今、まさにいじめにあって苦しんでいる者はどうすればよいのか。

一つの方法は強くなる事。

筆者の場合は いじめを糧に強くなる方法を選んだ。

もう一つは徹底的に逃げる事。

こちらの方が心にも体にも優しいかもしれない(※1)

孫子いわく『逃げるが勝ち』の通り徹底的に逃げる。


また、最近流行った原作が漫画のテレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』も良い例だ。

勝てない相手や大群に立ち向かうのは並大抵の体力や精神力では不可能なことが多い。

それならば いじめられている人が集まるような学校を探してそこへ移ると言う手段がある。

イジメられる人でも誰かは一緒になってくれる、その人を見つけるまで逃げることだ。

何かを成し遂げようと苦労し立ち向かう事といじめに立ち向かう事は心理面でも体力面でも全く異質なものだ。

イジメの場合は心が苦しいのだから心が楽に明るく楽しく思える環境が大事。

そんな逃げる時に障害になるのは身の回りの人や家族の非協力的な考え方・言動かもしれない。

逃げるという行為を人は えてして肯定しないものだ。

それならば極端な話をすれば家族を捨ててでも徹底的に逃げる。

そのことで新しい社会の一員になる可能性がある。

逃げてでも生き残り楽しみを享受するそれが現代の人に与えられた特権だと思う。

[個人的な意見です]

※1:強くなり戦う事は我慢の連続になるだろう。

そして、その我慢は本能に逆らう行為でもある。

その我慢を強いられた本能の脳は いずれ理性の脳に反撃をしてくる。

その反撃の形は人によって様々。

筆者の場合は自立神経の異常という形で表れて今でもそれと戦う羽目になっている。

今ではだいぶ症状は治まったが、そういった経緯から『逃げるが勝ち』の方が今のいじめ問題への対処として適しているのではないかと考えている。

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