NHK BS「重力波を探せ」番組まとめ

2017年

NHK BSプレミアムで放送されている「コズミック フロント☆NEXT」

テーマ「重力波を探せ」の番組内容をまとめてみる。

[番組内容]

(番組放送順と多少前後有り)
[序章]

[重力波望遠鏡KAGRA(かぐら)]

[重力波を捕えろ]

[ドイツの重力波望遠鏡GEO(ジオ)600]

重力波望遠鏡の原理

GEO(ジオ)600

[重力波に人生を捧げた人たち]

メリーランド大学 ジョーゼフ・ウェーバー教授

国立天文台 藤本眞克(まさかつ)教授

[重力波の尻尾を見つけた]

[量子力学の理論を突破せよ>小澤の不等式]

[重力波が聞こえた]

[観測レースの始まり]

LIGO(ライゴ)

KAGRA(かぐら)

再びLIGO(ライゴ)

[中性子合体観測へ光明]

[超ひも理論]

[ウェーバーの功績・小澤の不等式その後]

[独り言]

[解説]

番組の初回放送は2015年に米国LIGO(ライゴ)で重力波が観測される前の2014年だった。

[序章]

ブラックホールの誕生や超ひも理論の大きな手掛かりになると言われる重力波とは どんなものなのか。

太陽より巨大な星の動きが時空を歪め さざ波の様に伝わるという。

[重力波望遠鏡KAGRA(かぐら)]

日本では岐阜県日高市神岡地区の地下に重力波望遠鏡KAGRA(かぐら)を総工費150億円で建設。

建設場所は標高1368mの山の中。

1辺が3kmのL字型。

両端には鏡、反対側にはレーザーやスプリッター(ハーフミラー)・検出器が設置されている。

[重力波望遠鏡を上から見た概略図]

重力波望遠鏡 説明図1

KAGRA(かぐら)は2015年12月に観測開始予定。

[重力波を捕えろ]

アインシュタインが相対性理論で予言した一つに「重い天体の重力は空間を歪める」がある。

重い天体の周りでは重力が光を曲げる「重力レンズ」効果がおきる。

[重力レンズの概念図]

重力レンズ説明図

重力レンズで歪んだ背景の銀河

アインシュタインは重力に関してもう一つ予言した。

巨大重力源が動くと空間が歪み波として光の速さで伝わる(=重力波)とした

アインシュタインが相対性理論で予言した事は観測や実験によって ことごとく実証されてきたが、唯一「重力波」が宿題として残った。

[ドイツの重力波望遠鏡GEO(ジオ)600]

重力波望遠鏡の原理

重力波は超新星爆発などの大きな重力変化であれば観測できると考えられた。

重力波望遠鏡 説明図

上の図で重力波望遠鏡に対し右側から重力波が来た場合、Bの長さは変わらないがAの長さが重力波が伝わる時間経過によって変化し、検出器に その差が捕えられる仕組み。

ただしその差は長さにして1億5千万Km当りで水素原子1個分よりも短い1000万分の1mm。

*:一般にスプリッターから反射ミラーまでの間を「アンテナ」と呼ぶ。

GEO(ジオ)600

ドイツと英国で共同研究する重力波望遠鏡はドイツのニーダーザクセン州に建設された「GEO600」

アンテナの長さが600mで名前の由来になっている。

アンテナを囲う外壁部分は地上に剥き出しだが、心臓部に当たる観測装置は全てクリーンルーム内にある。

これは観測に精密さが要求されるため。

この重力波望遠鏡で得られた様々なデータは管理ルームのコンピューターに集めているが中でも重要なのは検出器からのデータ。

検出器はレーザー光監視モニター(=干渉計システム)で光の干渉を測ることで2本のアンテナの長さの差を測っている。

観測の精度を高めるための工夫としてはアンテナ中を1000億分の1気圧に保ち、観測は夜間に行う事で地上の車や生活雑音を極力少なくしている。

GEO600の観測領域は半径300万光年で この範囲で重力波望遠鏡で検出できる重力波が発生する確率は10万年に1度と見込まれている。

[余談]

大気の1000億分の1気圧≒1×10の-6乗[Pa(パスカル)]で だいたい地球と月の間くらいの真空。

この真空での平均自由行程(※1)は約5kmで600mのアンテナであれば十分と言える。

LIGOやKAGRAでは どれくらいの真空を保っているのか興味がある。

KAGRAのアンテナ長3kmで単純計算すると最低でも5×10の-7乗[Pa(パスカル)]くらいだろうか。

重力波望遠鏡のアンテナ部は振動が無く温度が低いほど測定精度が上がる。

※1:真空中の平均自由行程=分子や原子が隣の分子や原子にぶつかるまでの距離で、気圧と距離は ほぼ比例関係にある。

[重力波に人生を捧げた人たち]

メリーランド大学 ジョーゼフ・ウェーバー教授(1919-2000)

ウェーバー教授は1969年に重力波を観測したとの論文を発表した。

観測装置を2台製作し、 2台の間隔は1000km離して観測を続けていた。

観測装置は直径1.5m前後で長さ2m程度の円柱状、アルミ製で重さは1.4Ton。

超新星爆発で生じる重力波の波長と共振するように設計されていた。

原理としては音楽や理科で用いる音叉のようなもの。

ウェーバー教授の発表を受けて世界各国で同様の装置を作って観測が始まった。

1972年にはアポロ17号で月にも観測装置が設置されたが、いずれの装置でも重力波は観測できなかった。

このためウェーバー教授は次第に孤立していく。

晩年ウェーバー教授は「自分は成功したのになぜ他の研究者は見つけられないのか、なぜ私の観測結果を認めてくれないのか」と語ったという。

国立天文台 藤本眞克(まさかつ)教授

ウェーバー教授の重力波観測の発表に刺激を受けてパルサーと呼ばれる中性子星の観測を始めた。

パルサーとは強力な電波を極から発しながら1秒間に数回以上自転をする高速回転天体。

[パルサーの概略図]

中性子星 説明図

回転し、極(※2 上の図で赤い矢印)が地球に向いた時に電波が届くので電磁波が点滅している様に見える。

このためパルサーは「宇宙の灯台」とも言われる。

そしてパルサーは高速で自転するがゆえに遠心力で歪んだ楕円の球形(=ラグビーボール形状)をしていると考えられ重力波も発していると考えられた。

観測を1年半ほど続けたが1方向からの振動が最初の半月だけ見られたが、その後は一切観測されなかった。

半月だけ見られた振動の発生源は特定できなかった。

※2:北極や南極に当たる

[余談]

後の計算でウェーバー教授の観測装置の能力は最新の重力波望遠鏡の10万分の1程度で重力波の観測は不可能だったと分かった。

参考サイト

コトバンク 中性子星

コトバンク パルサー

[重力波の尻尾を見つけた]

アレシボ天文台(※3)の世界最大のパラボラ電波望遠鏡でラッセル・ハルス氏はわし座から発生源の分からない電波を捕えた。

※3:アレシボ天文台はSETI:地球外知的生命体探査でも有名

[下の写真の黄色の丸内に発生源を見つけた]

電波を観測し続け、その不規則な変化から連星の中性子星で片方の中性子星はパルサーであると分かった。

連星中性子星

この連星中性子星は公転軸に対し8時間で1周していた。

この連星中性子星は見かけ上ダンベル形状。

そして相対性理論上 ダンベル状の物体は重力波が出やすいとされた。

ハルス氏の計算では回転エネルギーは重力波に奪われ、中性子星の間隔が狭まり公転周期が5年で1秒くらい短く(速く)なると分かった。

その後1975年~2010年ごろまでの観測結果は計算と一致。

この功績で指導教官のジョーゼフ・テイラー氏とラッセル・ハルス氏は1993年にノーベル物理学賞を受賞した。

参考サイト

ウィキペディア アレシボ天文台

[量子力学の理論を突破せよ>小澤の不等式]

現在主流の重力波望遠鏡では当初 重力波が観測できないと言われてきた。

ウェルナー・ハイゼンベルク(1901-1976)の不確定性原理による観測の限界(※4)で光による観測では正確な測定ができないのが常識だった。

※4:電子や素粒子などの小さなものを測定しようとして光を当てると測ろうとしているものに影響を与えてしまう。

そのため正確な場所とエネルギー量が分からないとする量子力学の原理

この理論への反証は名古屋大学 小澤正直(まさなお)教授によってもたらされた。

小澤教授は光りはどんな小さなものも正確に測定できるとの論文を発表したが、当初は全く取り上げられなかった。

ある量子学会の国際会議に出席した時「光りで重力波を測定できるか」の論争に出会い、そのとき問題はとっくに解決していると不確定性原理の誤りを指摘した。

(これがキッカケで小澤教授の論文は科学雑誌ネイチャー1988年2月18日号に取り上げられ、この時の数式を「小澤の不等式」と呼んだ)

量子の限界が打ち破られたおかげで重力波観測の科学者たちの光明になり、ついで観測のスタートのキッカケにもなった。

さっそく重力波アンテナを始めたのは日本で三鷹にある国立天文台で1999年にTAMA300が稼働した。

責任者は前出の藤本眞克(まさかつ)教授。

この時の経験と知識がKAGRA(かぐら)に行かされている。

参考サイト

日経サイエンス ハイゼンベルクの不確定性原理を破った! 小澤の不等式を実験実証

[重力波が聞こえた]

京都大学 基礎物理学研究所 柴田大(まさる)教授の話し。

重力波の観測に当たり事前把握のため重力波を観測した時に見られる周波数や大きさについてスーパーコンピューターを使って調べた。

対象は連星中性子星の衝突で、最も強い重力波を放出すると考えられていた。

連星中性子星では周囲に物質をまき散らしながら合体し最後はブラックホールになる。

大きな重力波を発生し始めてからブラックホールになるまでは僅か50分の1秒。

この時に発生する重力波は超新星爆発の100~1000倍と見積もられた。

[重力波発生波形の概略図:横軸が時間・縦軸は重力波の大きさを示す]

ブラックホール出現波形

[余談]

合体の時に出る重力波の波長は2~3kHzで十分な大きさに増幅すれば人間の耳に聞こえる周波数であることも分かった。

[観測レースの始まり]

LIGO(ライゴ)

現在の観測のトップに立つのは米国のLIGO(ライゴ)

500億円の総工費をかけ2002年に稼働している。

アンテナの長さは4km。

元々アンテナの長さはもっと長くできたが地球が丸い事から4km以上に伸ばす事には限界があった。

これでも前出のGEO600の観測範囲300万光年・測定確率10万年に1回をはるかに凌ぐ観測範囲7000万光年・測定確率150年に1回の性能を誇る。

ただし観測精度が高くなったことで雨や風といった自然条件による振動の影響が無視できなくなった。

KAGRA(かぐら)

KAGRAのアンテナの長さは3kmと米国LIGOより短い。

ただトンネルを掘って地下に設置したことで地上付近よりも1/100~1/1000に生活・自然雑音を減らす事が出来る。

また鏡を-250℃まで冷やす事によって熱によるノイズを従来の1/10に減らす工夫を凝らしている。

これにより観測範囲は7億光年・観測確率は1年に10回と飛躍的に向上する。

再びLIGO(ライゴ)

LIGOでは観測確率を増やすため大改造を行った。

通常の重力波望遠鏡ではレーザーを1往復させて観測するが改造後のLIGOではレーザーの出力をアップ、反射ミラーなどを ほとんど交換し光りを100往復させた。

これにより観測確率をKAGRAと同等の1年間に10回まで向上させた。

LIGOの総工費は最終的に1000億円と見積もられている。

[中性子合体観測へ光明]

国立天文台 岡山天体物理観測所 理論研究部 田中雅臣(まさおみ)助教の話し。

年間50日以上の天体観測結果をもとに星からどんな元素が出来るのか物質と量を特定して調べている。

主に星からくる光を分析して金や白金などの重たい元素ができる仕組みを探っている。

恒星の核融合でできる最も重い元素は鉄。

それより重い元素は超新星爆発でできると思われてきたが恒星の核融合で出来る元素では中性子の量が不足している事が分かってきた。

このため金や白金などは中性子星合体で出来ると計算されたが観測できていなかった。

中性子星が合体してから放たれる光は合体後数日で周囲の元素やガスに光が吸収されて無くなる。

それを計算すると合体から5日以内なら光りの観測が可能と分かった。

重力波が観測できて中性子星が合体した方向が分かれば効率の良い観測が可能になる事になる。

この意味からも重力波の観測には大きな意義がある。

[超ひも理論]

ニューヨーク州コーネル大学 ヘンリー・タイ教授は重力波を使って新しい宇宙の姿を探ろうとしている。

「超ひも理論」がそれでビッグバン直後に出来た「宇宙ひも」が放つ重力波について研究している。

宇宙ひもは長いモノだと100億光年、だがその直径は原子の直径以下で見ることは不可能。

宇宙ひもは巨大な輪のようで振動しながら移動しているという。

理論上は輪の1カ所に振動が集まり尖った角ができたとき最も大きな重力波が発生する。

KAGRA(かぐら)の性能なら年間数回から数万回観測できると計算されている。

[ウェーバーの功績・小澤の不等式その後]

ウェーバーの功績

2002年米国天文学会はウェーバーの情熱に敬意を払い独創的観測装置を発明した研究者に与える賞を制定した。

ジョーゼフ・ウィバー賞がそれである。

小澤の不等式その後

小澤の不等式は東北大学 電気通信研究所で2013年に実験によって証明された。

光りにより測定で誤差なく測れることが枝松圭一教授らによって分かったのだ。

これにより小澤の不等式は量子通信・量子情報や量子コンピューターへ応用されていくことなる。

[独り言]

米国のLIGO(ライゴ)と欧州のVIRGO(バーゴ)では今年2017年に入って地球から約1億3千万光年から届いた重力波を検出。

波形の分析から中性子星合体の重力波と分かった。

連絡を受けた日米欧などは、合体後に放出された光を多くの望遠鏡で一斉に観測。

結果、宇宙のどこで生まれたのか分かっていない金や白金などの重い元素が、中性子星合体で生まれたとする理論と観測データがほぼ一致した。

前出の国立天文台 田中雅臣(まさおみ)助教の努力が実るとともに重たい元素の成り立ちに関する仮設が事実になった。

たかが重力波、されど重力波、重力波によって新たな知識を得ることで生物の成り立ちや星の成り立ち、果ては宇宙の成り立ちにも光明が当たるかもしれない。

参考サイト

「ついに解明!“ブラックホール成長の謎”」番組まとめ

NHK「重力は幻想なのか?」番組まとめ

重力波検出の原理と世界各国の検出器(PDFファイル)

ウィキペディア 重力波検出器

KAGRA 大型低温重力波望遠鏡

AstroArts LIGO、3度目の重力波検出(2017年1月のブラックホール合体検出)

産経ニュース 中性子星の合体で重力波 米欧が初検出

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